技能実習生の失踪。ニュースで目にするたびに、受入企業の担当者は不安を感じているのではないでしょうか。令和6年でも6,510人が失踪しています。しかし、失踪の原因を正しく理解している企業はどれだけあるでしょうか。
メディアの報道では「低賃金」「パワハラ」が原因として繰り返し取り上げられます。確かにそれも原因のひとつです。しかし、インドネシアから900名以上を送り出して失踪者ゼロを維持してきた私たちの目には、もっと根深い構造的な問題が見えています。
この記事では、「受入企業が悪い」「制度が悪い」という一面的な話ではなく、送出し機関・受入企業・制度・候補者本人──すべてに原因があるという現実を正直にお伝えします。そのうえで、失踪を防ぐために何ができるのかを具体的に考えていきます。
技能実習生の失踪、数字で見る現実
まず、失踪の現状を数字で確認しておきましょう。
(前年比33%減)
(令和6年時点)
建設関係も約半数
令和6年の失踪者数は6,510人で、過去最多を記録した令和5年(約1万人)から33%減少しました。一見改善しているように見えますが、日本全体で約45万人いる技能実習生に対して毎年数千人が失踪している事実は変わりません。
国籍別ではベトナムが最も多く全体の約半数、職種別では建設関係が突出しています。「うちは建設じゃないから大丈夫」「ベトナム人じゃないから安心」と思うかもしれません。しかし、失踪の構造的な原因は国籍や職種に関係なく存在しています。
失踪の「4つの原因」──すべてが絡み合っている
メディアや他のブログ記事では、失踪の原因を「低賃金」「パワハラ」の2つに集約しがちです。しかし、私たちの経験では、失踪は単一の原因で起こるものではなく、4つの要因が複雑に絡み合って発生します。
来日前の借金──すべての歪みの出発点
失踪の根本原因として最も見落とされているのが、技能実習生が来日する前に背負う借金です。
出入国在留管理庁の調査によれば、来日するまでに送出し機関に何らかの費用を支払っている技能実習生は約85%。支払い費用の平均は約52万円、さらに送出し機関以外のブローカーに支払っているケースも約11%あり、約55%の技能実習生が平均約55万円の借金をして日本に来ています。特にベトナムの場合、100万円を超えるケースも珍しくありません。
借金を抱えた状態で来日した実習生は、「とにかく稼がなければならない」というプレッシャーの中で働くことになります。残業が少ない月があれば不安になり、もっと稼げる話がSNSで流れてくれば心が揺れます。
受入企業の担当者の多くは、自社の技能実習生が来日前にどれだけの費用を払い、どれだけの借金を背負っているかを知りません。「うちの待遇は悪くないはずだ」と思っていることが、すでに盲点なのです。
さらに問題なのは、悪質な送出し機関が候補者本人に「費用は払っていない」と嘘を言わせているケースがあることです。受入企業や監理団体が確認しても、候補者自身が否定するため実態が表に出にくい。この構造が、問題の発見を困難にしています。
受入企業の労働環境──「パワハラ」の実態はメディアに出ない
低賃金、残業代の未払い、長時間労働──これらが失踪の引き金になることは多くのメディアで報じられています。しかし、メディアに出ていない部分が本当は一番深刻です。
私たちが送出し機関を立ち上げた当初、他の送出し機関を経由して日本に行った生徒たちから、信じがたい報告を受けました。角材で殴られた。殴る蹴るの暴行を受けた。ひどいところでは、尿を飲ませるという行為をされた実習生もいました。
もし日本人が同じことをされたら、どうしますか? 逃げずに、やめずに、翌日も出勤し続けられますか?
技能実習生には、基本的に転職の自由がありません。逃げ場がない中で暴力を受け続ければ、「失踪」という選択肢しか残らないのは当然の帰結です。
また、明確な暴力がなくても「最低賃金は払っているから問題ない」という認識は危険です。税金・社会保険・家賃を差し引いた手取りが10万円を下回るケースがあります。技能実習生はSNSで他の実習先の給与情報を日常的に共有しています。自社の待遇が「合法」であっても、「他と比べて極端に低い」と感じた瞬間、失踪のリスクは一気に高まります。
SNSでの誘惑──計画的な失踪も多い
技能実習生のほぼ全員がスマートフォンを持ち、SNSで同胞とつながっています。特にベトナム人コミュニティでは、日本国内で独自の大規模ネットワークが形成されており、「○○の会社は時給が高い」「こうすれば別の仕事に就ける」といった情報が日常的に飛び交っています。
送出し機関の教育段階で「失踪すると不法滞在者になり、最終的に強制送還される」というリスクをしっかり教育しているかどうかは、失踪率に直結します。しかし、来日前の借金が大きければ大きいほど、こうした教育の効果は薄れます。原因1の「来日前の借金」を解決しない限り、失踪の根本的な防止にはならないのです。
候補者本人の覚悟・適性の問題
これは業界ではなかなか言いにくいことですが、正直にお伝えします。
すべての候補者が日本で3年間働く覚悟を持って来日しているわけではありません。
「なんとなく日本に行けば稼げそう」「友達が行ったから自分も」──こうした曖昧な動機で来日した人は、最初の壁にぶつかった時点で心が折れやすい。言葉が通じない、仕事がきつい、食事が合わない、寂しい──これらは誰もが経験する困難ですが、覚悟がある人とない人では、その困難への耐性がまったく違います。
ここに送出し機関の責任があります。
受入企業が気づいていない「最大の盲点」
「採用人数の3倍集められます!」は何の強みにもならない
送出し機関の営業トークで最もよく聞くのが、「採用人数の3倍の候補者を用意できます」というフレーズです。
はっきり言います。これは簡単です。何の強みにもなりません。
人を集めるだけなら、どんな送出し機関でもできます。問題は、集めた後です。一番難しいのは、日本語能力を実際に使えるレベルまで教育すること。学校生活の中で日本のルールを守る習慣を身につけさせること。この教育こそが送出し機関の本質的な仕事です。
「3倍集めて送り出す」ことが目的になっている送出し機関は、候補者の弱みを伝えることを自社のビジネスにマイナスだと考えます。結果、表面的な情報だけが伝わり、ミスマッチが生まれ、そのミスマッチが失踪の種になるのです。
面接ではいくらでも取り繕える
受入企業の担当者が現地に行って面接をすることがあります。しかし、正直に言えば、面接だけで候補者の本質を見抜くのは極めて難しいのです。
候補者は、面接では当然いい顔をします。練習した日本語をうまく話し、やる気を見せ、笑顔で受け答えをする。異文化・異言語が加わることで、その人の本質を見抜くハードルはさらに高くなります。
本当に必要なのは、面接の30分ではなく、学校生活の数か月間で見えたその人の姿です。
どういう性格なのか。集団の中でどういう役割を取るのか。困難にぶつかったときにどう反応するのか。こうした情報は、日々一緒に過ごしてきた教師やスタッフからしか出てきません。しかし、それを受入企業に対して正直に伝えられる送出し機関がどれだけあるでしょうか。
「通訳」が「ただの通訳」になっている問題
入国後のコミュニケーションにおける「通訳の質」も見落とされがちな問題です。受入企業が外国人材と話し合おうとするとき、通訳を介することが多いです。しかし、その通訳が言葉を訳しているだけで、文化的な背景や感情のニュアンスを伝えていないケースが非常に多い。
たとえば、インドネシア人は直接的に不満を言うことを避ける文化があります。「大丈夫です」と言っていても、本心では限界に近いことがある。単に言葉を訳すだけの通訳では、この「大丈夫です」の裏にある本音を受入企業に伝えることができません。
結果、企業は「問題ない」と思っているのに、本人の中では不満が積み重なっているという状態が生まれます。そしてある日突然、失踪という形で表面化する。通訳に必要なのは、言語能力だけではなく、両国の文化を理解し、本質を翻訳する力です。
900名以上で失踪者ゼロを維持できている理由
ここまで失踪の構造的な原因を見てきましたが、「では、どうすれば防げるのか」という話をしなければ意味がありません。
私たちJobJepangが900名以上を送り出して失踪者ゼロを維持できている理由は、特別な魔法があるわけではありません。上で述べた構造的な問題のひとつひとつに対して、愚直に手を打っているだけです。
入口の段階で覚悟がない人を入れない
入学の段階で、日本で働くことの現実──良い面だけでなく、厳しい面も含めて──を正直に伝えています。「日本に行けば楽に稼げる」という幻想を持ったまま入学した人は、必ず壁にぶつかります。
覚悟がない人を入学させないことは、短期的には生徒数の減少を意味します。しかし、長期的には失踪やトラブルを防ぎ、受入企業との信頼関係を守ることにつながります。
面接合格後でも除籍する
これは私たちの方針の中でも特に厳しい部分です。面接に合格して受入企業が決まった後でも、学習態度に問題がある候補者は除籍します。
「面接に受かったからもう大丈夫」と気を抜く候補者は、実際にいます。こうした候補者をそのまま送り出せば、入国後に問題を起こす確率が高い。送出し機関にとって合格者を除籍することはビジネス的にもマイナスです。しかし、問題のある人材を送り出して失踪されるほうが、受入企業にとっても私たちにとっても遥かにダメージが大きいのです。
約18%の除籍率は、この方針の結果です。
「3倍集める」ではなく「誰が向いているか」を考える
受入企業から求人をいただいたら、まず実際の実習内容を徹底的にヒアリングします。どんな作業をするのか、職場環境はどうか、動画や写真をもらって生徒たちに見せます。そのうえで、希望者の中から「この生徒は向いているか」を一人ひとり検討します。
通訳ではなく「翻訳者」として機能する
入国後にトラブルや悩みが発生したとき、私たちは単なる言葉の通訳ではなく、文化と感情の翻訳者として機能します。インドネシア人の候補者が「大丈夫です」と言っているとき、本当に大丈夫なのか、それとも我慢しているのか。双方の本音を正確に伝え、認識のズレを埋める。
この役割は、言語能力だけでは果たせません。両国の文化を深く理解し、受入企業と候補者の双方と信頼関係を築いているからこそ可能になります。
それでも問題は起きる──だから教育を常にアップデートする
ここまでやっても、日本に行ったら何かしら問題は起きます。100%完璧に問題を防ぐことは不可能です。
人は製品ではありません。100人いれば100人全員が違う。だからこそ、新しい問題が起きたら、その情報をスタッフ全員に共有し、「何をすれば次に起こさないようにできるのか」を考え、常に教育をアップデートし続けています。
この作業に終わりはありません。しなければならないし、し続けなければならない。これが送出し機関の本当の仕事だと考えています。
受入企業ができる「失踪防止」の具体策
送出し機関選びの段階で失踪リスクを下げる
失踪防止は、入国後の対策だけでは不十分です。送出し機関を選ぶ段階がすでに失踪防止の第一歩です。候補者の来日前費用負担の開示、適性判断の方法、面接合格後の除籍制度、入国後の文化的通訳体制──これらを確認せずに「安い・速い・たくさん出してくれる」で選ぶことが、失踪リスクを高めています。
自社の待遇を「外国人の目線」で見直す
最低賃金をクリアしているかどうかだけでなく、税金・社会保険・家賃・光熱費を差し引いた実際の手取り額を確認してください。そこから母国に仕送りし、借金を返済できるのか。この計算ができている受入企業は、意外なほど少ないです。
「もし自分がされたら?」を基準にする
パワハラの問題は、シンプルな基準で判断できます。「自分がされたら、出勤し続けられるか?」 技能実習生には転職の自由がなく、失踪という形でしか逃げられません。この構造を理解したうえで、自社の職場環境を見直してください。
「大丈夫です」を信じすぎない
アジア圏の文化では、目上の人や雇用主に対して直接的に不満を伝えることを避ける傾向があります。定期的な面談、母語での相談窓口、信頼できる送出し機関や監理団体との連携を通じて、「言葉にならない不満」を拾い上げる体制を作ってください。
「お互い様」の関係を築く
日本国内の働き手が不足しているから海外から来てもらっている。一方、技能実習生も日本で技能を身につけ、お金を稼ぎたいと思って来ている。お互いに必要としている対等な関係です。外国人材を「ただの労働力」としてしか見ていない企業は、定着率で苦しむことになります。これは日本人を採用するときと何ら変わりません。
まとめ:失踪は「構造」の問題であり、「構造」で防げる
技能実習生の失踪は、単一の原因で起こるものではありません。
これらの要因が複合的に絡み合って、「失踪」という結果につながります。逆に言えば、それぞれの段階で適切な手を打てば、失踪は防げます。
受入企業の担当者の方には、「失踪は怖いから外国人は雇わない」ではなく、「失踪の構造を理解したうえで、正しいパートナーと正しい対策を取る」という姿勢で外国人材の採用に取り組んでいただきたいと思います。
失踪リスクを最小化した
インドネシア人材の採用なら JobJepangへ
私たちJobJepang(PT Garuda Baswara Internasional)は、インドネシア専門の送出し機関として、900名以上の送り出し実績で失踪者ゼロを維持しています。
面接合格後も除籍。約18%の除籍率で質を担保。
求人ごとに「向いているか」を個別に検討。向かなければ無理に送らない。
言葉だけでなく文化・感情を翻訳するコミュニケーション体制。
問題が起きるたびに教育をアップデートし続ける仕組み。
「失踪が心配で外国人材の採用に踏み切れない」という企業様に、安心していただける体制を整えています。まずはお気軽にご相談ください。