2027年4月1日、技能実習制度が廃止され、新しい「育成就労制度」が始まります。
「結局何が変わるのか」「うちの会社に影響はあるのか」「今の技能実習生はどうなるのか」——こうした疑問を持つ採用担当者の方は多いのではないでしょうか。
この記事では、政府が公式に発表している情報のみをもとに、採用担当者が押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。憶測や推測は一切含みません。
ポイント1:そもそも何が変わるのか
一言でいうと、「制度の目的」が変わります。
技能実習制度の建前は「国際貢献」でした。途上国への技能移転が目的であり、日本の人手不足を補うための制度ではない、という建前です。しかし実態は、多くの企業が人手不足の解消手段として利用してきました。
育成就労制度は、この建前を廃止します。はっきりと「日本の人手不足分野における人材の育成・確保」を目的として掲げています。
これは企業にとって大きなメリットです。「国際貢献が目的なのに、実質的には労働力として使っている」という矛盾がなくなり、正面から「人材を育てて戦力にする」ための制度として使えるようになります。
出典:出入国在留管理庁「育成就労制度の概要」令和7年12月改訂
ポイント2:今の技能実習生はどうなるのか
結論から言うと、2027年4月1日時点で技能実習中の方は、そのまま技能実習を続けることができます。慌てる必要はありません。
施行日(2027年4月1日)時点で技能実習を行っている方は、引き続き技能実習のルールが適用されます。1号実習中の方は2号への移行も可能です。ただし、3号への移行は、施行日時点で2号を1年以上行っている方に限られます。
また、施行日前に技能実習計画の認定申請を済ませている場合は、施行日後に入国して技能実習を開始できるケースもあります(施行日から3ヶ月以内に開始する計画に限る)。
なお、技能実習から育成就労への途中変更はできません。技能実習のルールで最後まで行うか、実習を終了してから育成就労として再度入国するかのどちらかになります。
出典:出入国在留管理庁「技能実習に関する経過措置のイメージ」令和7年12月改訂
ポイント3:対象は17分野。「特定技能でしか受けられなかった職種」も育成就労で使える
育成就労制度の対象は以下の17分野です。
介護、ビルクリーニング、リネンサプライ(新規追加)、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、宿泊、鉄道、物流倉庫(新規追加)、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、林業、木材産業、資源循環(新規追加)
特定技能制度の19分野から「航空」と「自動車運送業」を除いた17分野です。
ここで重要なのは、技能実習にはなかったが特定技能にはあった分野——たとえば外食業、宿泊業などが育成就労でも利用できるようになることです。
これまで外食業で外国人材を受け入れるには、特定技能しか選択肢がありませんでした。特定技能は試験に合格した人材を採用する仕組みなので、「未経験者をゼロから育てる」という使い方が難しい制度です。
育成就労では、こうした分野でも「未経験者を3年間かけて育成する」という形での受け入れが可能になります。これは外食業や宿泊業にとって大きな変化です。
出典:出入国在留管理庁「分野別運用方針」2026年1月23日閣議決定
ポイント4:日本語能力の要件が明確になった
技能実習では、入国時の日本語能力に明確な要件はありませんでした。育成就労では、段階ごとに日本語能力の基準が設定されています。
入国時:日本語能力A1相当(JLPT N5)の試験に合格、または相当する日本語講習を受講
就労開始後1年時点:分野ごとに設定される日本語試験に合格(A1〜A2の範囲で分野ごとに異なる)
特定技能1号への移行時:日本語能力A2相当(JLPT N4)の試験に合格
企業にとってのメリットは「来日する人材の日本語力に最低限の保証がつく」ことです。技能実習では、日本語をほとんど話せない状態で来日するケースもありましたが、育成就労では少なくともN5レベル(ごく基本的な日本語の理解)が入国の条件になります。
注意すべき「抜け穴」:日本語講習の受講だけで入国できてしまう
ここで一つ、採用担当者に知っておいていただきたいことがあります。
入国要件は「N5の試験に合格」または「相当する日本語講習を受講」のどちらかです。N5合格であれば、少なくとも試験に受かったという客観的な事実があります。しかし「講習受講」の方は、実態として教育が行われたかどうかを外部から確認する手段がありません。
送出し機関の現場を知る立場から正直に言うと、面接に合格した後、生徒が日本語の勉強をしなくなるケースは珍しくありません。学校には在籍しているが授業には出ない、先生も注意しない——そうした状態でも「講習を受講した」という記録は作れてしまいます。
つまり「講習受講」の要件は、教育ができない送出し機関にとっての逃げ口になっています。形だけの講習で済ませれば、日本語がほとんどできない人材でも従来と同じように入国できてしまいます。
もしN5やN4の資格を持っている人材を採用した場合に受入企業のコストが下がる仕組みが導入されれば、企業は「資格を持っている人材」を優先的に採用するようになり、送出し機関にもしっかり教育するインセンティブが生まれます。教育の質で選ばれる市場になれば、「つながり」だけで求人を獲得している送出し機関は淘汰されていくはずです。
一方で、送出し機関を運営する立場として正直に感じていることがあります。日本語の試験に合格できる能力と、日本の職場で活躍できる能力は必ずしも一致しません。試験のスコアだけで人材の質を判断することには限界があります。この点については別の記事で詳しくお伝えしたいと思います。
採用担当者へのアドバイス:人材を受け入れる際は、「N5の試験に合格しているか」それとも「講習を受けただけか」を必ず確認してください。試験に合格している人材を選ぶことが、入国後のコミュニケーションコスト削減と定着率向上に直結します。
出典:出入国在留管理庁「育成就労制度及び特定技能制度のイメージ」、JITCO「育成就労制度FAQ」
ポイント5:転籍(就労先の変更)が認められる——企業にとっての最大の変化
技能実習では、原則として就労先の変更(転籍)は認められていませんでした。育成就労では、一定の条件を満たせば、本人の意向による転籍が認められます。
転籍の条件は、同一の業務区分内であること、技能検定基礎級等の試験に合格していること、分野ごとに設定される日本語試験に合格していること——これらを満たした上で認められます。
また、やむを得ない事情(ハラスメント、賃金未払い等)がある場合は、上記の条件を満たさなくても転籍が認められます。
企業にとってのデメリットとして、「せっかく育てた人材が転籍してしまうリスク」が挙げられます。
しかし、実態を考えてみてください。技能実習では転籍が認められないがゆえに、人材が「失踪」という形で職場を離れるケースが多発していました。育成就労では転籍を正規のルートにすることで、失踪のリスクを下げる設計になっています。
転籍を防ぐためにできることは、人材の待遇を改善すること、日本語教育の支援を行うこと、職場のコミュニケーションを活発にすることです。制度で縛るのではなく、「この会社で働き続けたい」と思ってもらう職場をつくることが、最も確実な定着策になります。
なお、大都市圏への転籍集中を防ぐため、都市部で在籍する育成就労外国人のうち、転籍者の割合を6分の1以下に制限する措置も設けられています。地方の企業にとっては、人材流出の歯止めになる仕組みです。
転籍の際の職業紹介は、監理支援機関、外国人育成就労機構、ハローワークが担当します。民間の職業紹介事業者は関与できません。
出典:出入国在留管理庁「育成就労制度の概要」、日本経済新聞2025年12月23日付
ポイント6:送出し機関の費用が変わる可能性がある
育成就労制度では、送出し機関に支払う手数料が不当に高額にならない仕組みが導入される予定です。具体的には、送出し国との二国間取決め(MOC)を通じて、手数料の適正化が図られます。
また、これまで技能実習生本人が全額負担していた送出し費用について、外国人と受入機関が手数料を分担する仕組みも検討されています。
これは企業にとってコスト増になる可能性があります。しかし、送出し費用を分担することで技能実習生の借金が減り、結果として失踪リスクが下がります。「採用コストが少し増えるが、定着率が上がる」というトレードオフです。
具体的な金額や分担割合は、各送出し国とのMOC交渉によって今後決まります。現時点では確定していませんが、企業は「送出し費用の一部を負担する可能性がある」ことを予算に織り込んでおくべきです。
出典:出入国在留管理庁「育成就労制度の概要」
ポイント7:特定技能との連続性——「育てて、定着させる」キャリアパスが明確に
育成就労制度の最大の特徴は、特定技能制度との接続です。
育成就労(3年間)→ 特定技能1号(5年間)→ 特定技能2号(制限なし)
このキャリアパスが制度的に明確になりました。技能実習では「3年(または5年)で帰国」が基本でしたが、育成就労では「入口から長期就労を見据えた設計」になっています。
特定技能1号への移行には、技能検定試験3級(または特定技能1号評価試験)と日本語能力N4の合格が必要です。試験に不合格だった場合は、再受験のために最長1年間の在留継続が認められます。
さらに特定技能2号に移行すれば、在留期間の制限がなくなり、家族の帯同も可能になります。
これは企業にとって非常に大きなメリットです。「3年で帰国してしまうから、また新しい人材を一から教育しなければならない」という技能実習の最大の課題が、制度レベルで解消されます。育成就労で3年間育てた人材を、そのまま特定技能1号として5年間雇用し、さらに2号に移行すれば事実上の永続雇用も可能です。
出典:出入国在留管理庁「育成就労制度及び特定技能制度のイメージ」
企業がやるべき準備——タイムライン
2027年4月の施行まで、約1年です。以下のスケジュールを確認してください。
2026年4月15日:監理支援機関の許可申請受付開始。現在の監理団体は、新しい基準で許可を受け直す必要があります。企業は、自社が利用している監理団体がこの許可を取得できるか確認してください。
2026年9月1日:育成就労計画の認定申請受付開始。育成就労で人材を受け入れるには、外国人ごとに「育成就労計画」を作成し、外国人育成就労機構の認定を受ける必要があります。
2027年4月1日:育成就労制度 施行。
今すぐやるべきことは3つです。
1つ目は、自社の業種が17分野に含まれるか確認することです。技能実習の91職種168作業から大幅に整理されているため、従来の技能実習では対象だったが育成就労では対象外になる作業がないか確認が必要です。
2つ目は、利用中の監理団体に「監理支援機関の許可申請を行う予定か」を確認することです。許可基準は技能実習の監理団体より厳格化されています。現在の監理団体が許可を取得できない場合、新しい監理支援機関を探す必要があります。
3つ目は、転籍を前提とした人材定着策を検討することです。「辞められない仕組み」ではなく「辞めたくない環境」をつくることが、育成就労時代の人材戦略の基本になります。
出典:出入国在留管理庁「施行までのスケジュール(予定)」令和7年12月改訂
まとめ:育成就労制度は企業にとってメリットが大きい
育成就労制度の変更点を、企業目線でまとめます。
メリット:
- 「人材育成・確保」が正式な目的になり、制度と実態の矛盾が解消される
- 特定技能への移行パスが明確になり、長期雇用が可能になる
- 外食業や宿泊業でも「未経験者を育てる」形での受け入れが可能になる
- 入国時のN5要件により、最低限の日本語力が保証される
- 送出し費用の適正化により、人材の借金が減り、失踪リスクが下がる
デメリット:
- 転籍が認められるため、人材が流出するリスクがある
- 送出し費用の一部を企業が負担する可能性がある
デメリットへの対策:
- 転籍リスクについては、待遇改善と職場環境の整備で「辞めたくない会社」をつくること
- 費用負担については、失踪による再採用コストと比較すれば、結果的にコスト削減につながる可能性が高い
この記事は、2026年4月11日時点で政府が公式に発表している情報に基づいています。制度の詳細は今後も更新される可能性があります。最新情報は出入国在留管理庁のウェブサイトをご確認ください。
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